同族会社においては、会社とその役員との間で様々な取引が行われています。特にオーナー支配の強い会社では、通常の市場取引では考えられないような内容の取引もあるようです。税法では課税公平の見地から一定の規制をしているので、特に事案の多い金銭の賃借についてポイントを整理してみます。
T 会社が役員にお金を貸す場合
1 認定課税有り
会社は、利益の追求を目的とする営利法人ですから、取引をする場合には、常に経済的合理性が要求されます。
したがって、会社が役員にお金を貸すときは、適正な利率により利息を徴収すべきであり、仮に無利息または低利による貸付を行ったときは、会社の経済的合理性に反する行為として、適正利息との差額に相当する部分については、税務上は受け取ったものとみなされ、会社の収益に計上されます。これを認定課税といい、法人の場合には認定課税があります。
2 適正な利率
その資金が他から借り入れたものである場合にはその借入利率、その他の場合には貸付けをした日の属する年の前年の11月30日現在の公定歩合に年4%の利率を加算した利率(現在4.10%)によります。
実務的には、4.10%の金利をとるか、調達金利の根拠を示せるようにして調達金利以上にすることが重要です。
3 契約上のポイント
会社が役員にお金を貸す場合には、少なくとも契約書に次の事項を明記しておく必要があります。
@当事者の氏名
A貸付金額と交付日
B返済期限・返済方法
C利率
D契約日
4 商法上の問題
会社が、その役員との間で金銭消費貸借契約を締結するという行為は、商法上、会社とその役員との間の「自己取引」となります。したがって、会社が役員にお金を貸す場合には、あらかじめ、その自己取引について、取締役会の承認を得ることが必要になります。
なお、取締役会で自己取引に賛成した取締役は、会社が損害を被った場合、連帯して損害賠償しなければならないので注意が必要です。
5 利息をとらなくともよいケース
次のような場合には、役員に対して無利息または低利による貸付けがあったとしても、適正な利息との差額が「給与」とされることはありません。
@災害、疾病などにより、臨時的に多額の生活資金が必要になった役員に対して行う貸付け
A適正な利率により計算した利息相当額が、会社の一事業年度当たり、五千円以下である貸付け
U 役員が会社にお金を貸す場合
1 認定課税、原則として無し
個人の場合は、会社と異なり、常に経済的合理性に基づいて取引をするものではありません。
したがって、役員が会社にお金を貸付けても、当然利息を徴収すべきという考え方はとられませんので、特殊事情がない限り認定課税はないと思われます。
2 利率が高いケース
役員に対して、通常より高い利率により利息を支払った場合、適正な利息部分については支払利息となりますが、それを超える部分は法人税の計算上「役員報酬」となり、会社側にその役員報酬に対する源泉徴収の問題が発生します。
また、この役員報酬を加えたところで、その役員報酬が過大であるかどうかが判定されることになります。